大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋地方裁判所 平成8年(ワ)4657号 判決

原告

濵田一幸

被告

星野信男

主文

一  被告は、原告に対し、金六万四六七五円及びこれに対する平成八年八月二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告に対し、金二四九万五八二四円及びこれに対する平成八年八月二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、被告の起こした交通事故について、被告が運転する自動車に同乗していた原告が、被告に対し、民法七〇九条又は自動車損害賠償保障法三条に基づいて、その損害の賠償を請求した事案である。

一  本件事故

平成八年八月二日午前五時四〇分ころ、福井県南条郡今庄町湯尾の北陸自動車道下り線六四・六キロポスト付近において、被告が運転し、原告が助手席に同乗する普通貨物自動車(以下「本件自動車」という。)が、進路前方を進行していた大型特殊貨物自動車に追突した(争いがない。)。

二  被告の責任

被告は、過労などの理由により、正常な運転ができないおそれがある状態で車両等を運転してはならない注意義務があったのにそれを怠り、居眠り運転をしたため前方の車両の発見が遅れ、本件事故を起こした(争いがない。)。

また、被告は、本件事故当時、本件自動車を運転しており(争いがない。)、その自動車を事実上支配して自由に使用できる状況にあったから、自動車損害賠償保障法三条にいう運行供用者である。

三  原告の受傷とその治療

原告は、本件事故により、腰椎捻挫、腰部打撲等の傷害を負い(甲一号証の一、三)、以下のとおり治療を受けた(原告は、本件事故により更に頸部打撲、両膝部打撲の傷害を受けたと主張するが、これらを認めるに足りる証拠はない。)。

1  林病院 平成八年八月二日に通院一日(乙六号証の一八)

2  棚橋病院 同月五日、六日、一二日に通院三日(甲一号証の二、乙六号証の九、一〇、一七)

3  鮫島病院 同月二三日から同年九月二七日まで通院実日数七日(甲一号証の四)

(原告は、平成八年八月二日から同月四日まで林病院に通院、同月五日から同月二二日まで棚橋病院に通院、同月二三日から同年九月二七日まで鮫島病院に通院、同月二八日以降棚橋病院に通院したと主張する。なるほど甲二号証の一、二によれば同年一一月二五日、二九日の両日棚橋病院に通院した事実は認められるが、林病院では全治七日間(甲一号証の一)、棚橋病院では約二週間の安静加療(同号証の二)、鮫島病院では同年九月末日まで通院加療(同号証の三)などの診断を受けていた事実に照らすと、右両日の診察が本件事故と相当因果関係を有するものであると認めることはできないし、右に認定した治療以外の治療を原告が受けていたと認めるに足る証拠もない。)

二  争点

1  本件事故による原告の損害額

2  過失相殺

3  既払金による損益相殺

第二争点に対する判断

一  争点1について

1  治療費及びタクシー料金

林病院での治療費一五〇〇円及び棚橋病院での治療費のうち平成八年八月五日、六日、一二日分五万六〇四五円の合計五万七五四五円については、当事者間に争いがない。

原告は、前記平成八年一一月二五日、二九日両日分の棚橋病院の治療費八三八八円及びその通院に要したタクシー代一七四〇円の合計一万〇一二八円を請求するが、前述したとおり右両日の治療については本件事故との相当因果関係を認めるに足りる証拠はないから、原告の請求には理由がない。

また、原告に対しては被告からタクシー代一万一三三〇円が支払われているが、本件事故による原告の傷害について通院のためにタクシーを要すると認めるに足りる証拠はない。

2  休業損害

原告は、店舖等の広告看板の製造、販売、取付工事等を営業とする訴外株式会社アド・インターナショナルとの間に専属施工請負契約を締結し、同社の注文により各地で広告看板の組立及び取付工事を業として行ってきたものであるので、休業損害として、平成八年一月から同年七月までの受注額の平均である一か月九三万九六一四円から、二〇パーセントの必要経費(自家用車の燃料代等の費用及び道具代など)を控除した一か月七五万一六九一円(一日あたり二万五〇五六円)を基礎として、本件事故のため就業不能であった平成八年八月二日から同年一〇月六日までの六六日間分として合計一六五万三六九六円を請求する。

なるほど、証拠(甲五号証、六号証、八号証、原告本人)によれば、原告が店舖等の広告看板の製造、販売、取付工事等を営業とする株式会社アド・インターナショナルとの間に専属施工請負契約を締結し、同社の注文により各地で広告看板の組立及び取付工事を業として行ってきたこと、原告の平成八年一月から同年七月までの受注額の平均が一か月九三万九六一五円であること、原告が平成八年八月二日から同年一〇月六日までの六六日間就業しなかったことが認められる。

しかしながら、弁論の全趣旨によれば、原告は相当多額の収入を得ているにもかかわらず税金の申告をしておらず、原告が主張するような必要経費の割合を認めるに足りる証拠はない。他方、被告本人尋問の結果によれば、被告は原告と同種の仕事をしており、その必要経費は三割から四割であることが認められるから、原告については少なくとも受注額から四割を控除した一か月五六万三七六九円(一日あたり一万八七九二円)の収入があったと認めることができる。

また、原告について本件事故による相当な休業期間は、前記の治療状況に鑑み、平成八年九月二七日までの五七日間である。

したがって、原告の休業損害は一〇七万一一四四円となる。

3  慰謝料

原告は、慰謝料として、九〇万円を請求するが、本件事故の態様や原告の受けた傷害の程度、治療期間に比べ実通院日数は多くないこと、後述する原告と被告との関係、本件事故後被告に対して保険を使わせず嫌がらせの電話を掛けるなどした本件事故後の原告の態度など前掲の各証拠により認められる本件に現れた諸般の事情を考慮すると、一〇万円が相当である。

4  その他

原告に対しては被告からJR代五〇九〇円、籐製マット代七〇〇四円、郵便切手代七〇〇円の合計一万二七九四円が支払われているが、本件事故による原告の傷害と認めるに足りる証拠はない。

二  争点2について

1  証拠(原告本人、被告本人)によれば、以下の事実が認められる。

原告と被告は、株式会社アド・インターナショナルから請け負う広告看板の組立及び取付工事を、本件事故の約半年くらい前から二人で組になって行うことがあったが、その際車に二人で乗るにあたっては原告の方が仕事の経験が長かったため、後輩である被告が運転することがほとんどであった。

被告は、本件事故の前日午前零時すぎまで仕事をしてほとんど寝ていないのに、本件事故当日は午前三時ころに原告と待ち合わせ、仕事先である富山市内へと出発した。その後まもなく原告が眠ってしまったため、被告は本件自動車の運転を続け、本件事故が発生した。

また、原告は、本件自動車を運転する運転免許を有している上、本件自動車に乗車後まもなく、その助手席のシートベルトが壊れていることに気付きながら、漫然とそのまま同乗していた。

2  右に認定した事実によれば、原告は、本件自動車を被告に運転させるにあたっては、本来被告の先輩として、被告の疲労具合などに気を使い、被告が疲労しているのであれば原告自身が本件自動車を運転すべきであった。また、助手席に座っていながらシートベルトを締めていなければ、運転している被告が責任を問われるのであるから、自動車を変更し、又はシートベルトを修理するなど適切な措置を取るべきであった。そうした配慮を怠り漫然と助手席で居眠りをしていた原告については、公平の観点からその過失を斟酌するのが相当であり、その割合としては五割とするのが相当である。

したがって、被告が賠償すべき原告の損害は六一万四三四四円である。

三  争点3について

被告から、原告に対し、四六万八〇〇〇円(現金交付分一五万円、銀行振込分三一万八〇〇〇円)が支払われたことについては、当事者間に争いがない。

右の外、被告から合計八万一六六九円が支払われたことについては、証拠(乙四号証、五号証、六号証の一から一八まで、原告本人、被告本人)により認めることができる。

右既払金を損益相殺すると、被告が賠償すべき原告の残損害は六万四六七五円となる。

原告は弁護士費用として四〇万円を請求するが、右残損害金額や先に認定した本件事故後の原告の態度などを考慮すると、本件訴訟を提起する必要があったとは認められないから、原告の請求には理由がない。

また、仮執行宣言の申立てについては、その必要がない。

(裁判官 榊原信次)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例